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生成AIの目覚ましい進化とともに、その活用のノウハウなどについてもさまざまな情報が広がっています。
その一つとして最近目にしたのは「プロンプトはもういらないのでは?」という説です。プロンプトとは、指示や問いかけのことで、生成AIからベターなアウトプットを引き出すために、プロンプトに工夫を凝らすことを「プロンプトエンジニアリング」と呼びます。
本稿では、生成AI時代におけるプロンプトエンジニアリングの意義を整理し、その必要性を再考するとともに、AI技術の進化とともに求められるスキルについて考察します。

生成AIの進化とプロンプトエンジニアリング不要論

ここ数年、生成AIは急速に普及し、様々な分野で革新的なツールとして活用されています。文章作成、画像生成、資料作成、図解や検索といった専門ツールが次々と登場し、ユーザーは従来の手作業に比べて格段に効率的に成果を上げられるようになりました。シンプルなプロンプトを入力するだけで一定のクオリティを持ったアウトプットが得られる現状は、多くの企業やクリエイターにとって大きなメリットです。しかし、このようなツールの進化は万能ではなく、特定の複雑なタスクや微妙なニュアンスを要求する場合には、シンプルなプロンプトだけでは十分な結果が得られないこともあります。
「プロンプトエンジニアリングは不要だ」とする意見も存在します。その背景には、ユーザーが基本的な「伝える力」を持っていれば、複雑なテクニックを用いなくても、システム開発者側が工夫を凝らして、ユーザーの曖昧な指示を正しく解釈できるようになっているという主張があります。つまり、AIツールがますます高度な自律性を獲得する中で、プロンプトをエンジニアリングする(工夫する)必要はなくなるという見解です。確かに、システム開発者側で工夫を凝らし、ユーザーがわざわざ複雑なプロンプトを作成しなくても済むように設計するという考え方には一理あります。しかし、現実にはAIツールが対応できるタスクには限界があり、より高度な指示や具体的な要求を伝えるためには、プロンプトの構造化やテクニックがカギとなります。
例えば、生成される文章や図表において、どの情報を強調し、どの部分を省略するかという判断は、ツールの自動生成だけではカバーしきれません。アウトプットの理想形を理解しているユーザー自身です。本稿を執筆している2025年3月時点においては、プロンプトエンジニアリングはユーザーが求める品質や精度を実現するための重要な技術だといえるでしょう。

なぜプロンプトエンジニアリングは必要なのか

ここでは、プロンプトエンジニアリングが今なお重要とされる理由を解説します。

理由①:AIツールの進化には限界がある

生成AIは、近年の技術革新によってシンプルな指示でも驚くほどの成果を上げるようになりました。しかし、複雑なタスクを実行する際には、入力するプロンプトの精度や工夫次第で、その成果が大きく左右されます。たとえば、資料作成や図解、特定の検索クエリを実行する場合、各専門ツールが提供する機能を最大限に引き出すためには、ただ単に「情報を出力せよ」と指示するだけでは不十分です。
各タスクに適した指示文にすることにより、ツールの持つ機能の限界を補完し、より高品質なアウトプットを得ることができます。つまり、ツール自体が進化しているとしても、その性能を最大限に活用するためには、依然としてユーザーの適切なプロンプト作成が必要なのです。

理由②:AIとの対話には独自の作法がある

人間同士のコミュニケーションは、言葉の裏にある感情や文脈を含めた多層的なやり取りが可能ですが、AIとの対話はテキストベースの指示文に依存します。そのため、指示の意図や背景などを含めて、アウトプットに対する要件を構造化された明確な文章で指示することが肝要です。
たとえば、「あなたは○○です」といった役割設定や、「水平思考で出力してください」といったテクニックは、AIに対して具体的な行動や思考の枠組みを与えるために効果的です。

理由③:プロンプト作成プロセスは問題解決力を高める

プロンプトエンジニアリングは、単なるテンプレートの暗記ではなく、実際に試行錯誤を重ねながら最適な指示文を作り上げていくプロセスです。この過程で、ユーザーは自分の要求や目的を明確に言語化し、問題点を整理する能力を鍛えることができます。
具体的には、AIから期待通りの出力が得られなかった場合、その原因を分析し、どの部分に改善が必要なのかを考えるプロセスは、ユーザー自身の論理的思考力や問題解決力の向上に直結します。

まとめ

生成AIの進化により、シンプルな指示でも一定の品質のアウトプットが得られるようになりました。しかし、AIがすべてを自動的に解決してくれるわけではなく、求める結果を得るためには、人間の側の「伝え方」が依然として重要です。プロンプトエンジニアリングは、まさにそのカギを握るスキルと言えます。そこに必要なのは、明確で論理的な指示を作成するプロセスです。また、「human readable」な言葉だけでなく、「machine readable」な言葉を意識すること。また、各ツールの特性(ChatGPTでいえば、文脈からのアウトプットは得意だが記憶を持っているわけではない。意図しないバイアスや誤解を生じさせるアウトプットが生成されることもあるなど)を理解すること。

生成AIをめぐっては、そのリスクも含めてさまざまな議論がありますが、生成AIと共存する生活はますます一般的になっていくと思われます。そうした社会において、人間がマシン(machine)を理解し、効果的に働く新しいコミュニケーションスキルを身に付けることがAIとの共働を円滑に進めるのではないでしょうか。

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