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そのニュース、誰の視点から? 〜偏りを可視化する新しいメディアのカタチ「Ground News」〜
2025/5/8 ブログ, 未分類 グローバル・海外広報, コミュニケーション戦略, ソーシャルメディア, ニュース比較, フィルターバブル, メディアリテラシー, メディア・リテラシー, 報道, 新しいメディア
ニュース比較プラットフォーム「Ground News」
「Ground News」は、50,000以上のニュースソースから記事を収集し、同じトピックについて複数の報道を並列で表示するニュース比較プラットフォームです。大きな報道機関だけでなく、個人が運用するニュース掲示板から政府や企業が所有するメディアまで、多様なニュースソースからトピックが表示され、「左派・中道・右派」などと比較されます。
それぞれのトピックについて、どのメディアあるいはニュースソースが、どのような政治的立ち位置(左派/中道/右派)で報道しているか、またそのメディアの株主や所有者構造、事実性などが分かりやすく表示されています。その中でも特筆すべき機能が「Blindspot(ブラインドスポット)」です。これは、特定の政治的立場をとる人々に対して表示されにくいニュース(=情報の死角)を提示するもので、個人最適化によってフィルターバブルの中にいる読者が日頃接点を持ちにくい情報にアクセスできるように設計されています。
近年では「フェイクニュース」や「エコーチェンバー」「アルゴリズムによる偏向表示」など、今日の情報環境をめぐる課題が広く認識されるようになってきました。「Ground News」のように「どのメディアがそのニュースを発信しているか」、「そのメディアの信頼性はどれほどか」などを可視化することは、メディア全体を俯瞰する新たな視点を持たせてくれます。
情報を鵜呑みにする時代ではなくなったからこそ、このようなプラットフォームはますます注目を浴びることでしょう。
新しいニュースメディアの形とフィルターバブルの存在
インターネットとスマートフォンの普及により、人々が日々目にするニュースは、テレビや新聞からソーシャルメディアやニュースアプリへと、若年層を中心に大きく移行しつつあります。X(旧Twitter)やInstagram、YouTubeなどに見られるように、ソーシャルメディアでは、誰もが情報発信者になることができ、誰もが瞬時に情報を得ることができます。
このように情報が自由に流通する中で、情報の表示に関してユーザーに最適化する動きがこの10年ほど活発になりました。Meta社やGoogle社などのプラットフォーム運営企業は、AIやアルゴリズムを利用して人々の興味を引くコンテンツを予測・表示し、ユーザーの滞在時間を延ばそうと動いてきました。
しかしその一方で、「ユーザー自身が好む情報しか届かない」環境が作られていることも事実です。これは「フィルターバブル」と呼ばれ、アルゴリズムによってユーザーの嗜好に合った情報を優先して表示される状態を指します。このフィルターバブルは、異なる意見や価値観と接する機会を減らし、社会的な分断を生む一因ともされています。
ニュースメディアと政治的立ち位置の変化
日本国内では、いわゆる報道機関といえば公共放送と放送免許を有する一般放送事業者や新聞など が主であり、その数も限られています。かつてはこうした報道機関から情報を得るのが一般的でした。しかしソーシャルメディアが台頭した現在は、従来の放送事業者以外の発信者やインフルエンサー、さらにはコメント欄や掲示板に書かれる一般の視聴者のコメントなどを情報源にできるようになり、情報収集の選択肢は大きく広がり、また変わったといえます。

30歳未満のアメリカ人成人の約4割が、ニュースインフルエンサーからニュースを得ている
転載:https://www.pewresearch.org/?attachment_id=191630
米国においても同じような変化が見られます。2024年に米国の非営利シンクタンクであるPew Research Centerが実施した調査によると、30歳未満の米国成人の約4割が、ソーシャルメディア上の「ニュースインフルエンサー」からニュースを得ていると回答しています。ここでいう「ニュースインフルエンサー」とは、Facebook、Instagram、TikTok、X(旧Twitter)、YouTubeのいずれかで10万人以上のフォロワーを持ち、時事問題や社会的なテーマについて定期的に発信している個人を指します。報道機関に所属する(もしくはしていた)ジャーナリストだけでなく、独立系のコンテンツクリエイターも含まれますが、いずれも「個人」であることがポイントです。

アメリカ人の中でリベラルと保守の見解を併せ持つ人の割合は減少傾向にある
転載:https://www.pewresearch.org/politics/2017/10/05/1-partisan-divides-over-political-values-widen/
Pew Research Center が実施した別の調査によると、政治面 では過去と比べ、より人の政治的価値観が偏向しているという結果も出ています。その結果、メディアの中立性が低下すれば、人は自分の持つ価値観と合ったメディアを見たいという確証バイアスが働き、その価値観はより極度に偏向していくでしょう。
メディアの分断の可能性を考慮する
以下の図では、米国における「よく読む/見るメディア」と日本における「よく読む/見るメディア」の政治的な立場を比較しました。米国と比べて、日本のメディアは一見して極端な政治的立場の偏りは見られません。しかし、弊社の河原畑が過去の選挙について記したように、今後日本国内においても、特定の政治的立場や政党、候補者を熱狂的に支持する層が拡大する可能性があり、またそれに伴ってメディアが視聴者や読者の支持を狙って、特定の立場を強調した報道を行わないとも限りません。特にメディアリレーションを担う広報担当者にとっては、メディアの背後にいる生活者が、どのような情報源を好み、どのような接触傾向を持っているのかなどに常にアンテナを張っておくことが重要と考えます。
「Ground News」のようなサービスの登場は、私たちが「どのニュースを、どの視点から読むか」を問い直すきっかけとなるでしょう。情報の受け手である私たち一人ひとりが、無意識のうちに形成されるフィルターバブルを自覚し、より多面的な情報へアクセスしようと意識することが、分断の時代において健全な判断力を養うトレーニングだと考えます。
広報・コミュニケーションに関わる立場としても、伝えたい相手の情報環境や認知の傾向を踏まえた戦略設計がカギとなることが分かるかと思います。情報があふれる今日だからこそ、「届け方」のみならず、その情報が「どう受け取られるか」にまで目を向けていただきたいと思います。
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