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7月7日東京都知事選挙戦に見るクロスメディア戦略の重要性

2024/7/11 ブログ コミュニケーション戦略, ソーシャルメディア, デジタルメディア, 東京都知事選挙, 選挙 staff

7月7日に投開票が行われた東京都知事選挙。その主要候補者の選挙活動は、SNSの活用を含め、コミュニケーション方法についても大きな注目を集めました。
本稿では、広く大衆の支持を得るための方法論における「クロスメディア戦略」をキーワードに、企業コミュニケーションを考える上でのヒントを探っていきます
あくまでもコミュニケーションのヒントを探る考察であり、特定の政党・政策、候補者を支持する内容ではありません。

候補者の選挙スタイルと結果

企業のコミュニケーション活動と選挙活動とでは短期決戦か否かの時間軸からして、その性質が異なることは言うまでもありません。しかし、特定のターゲット層あるいは広く不特定多数の支持を得ることを目的としたメッセージ発信という本質は同じです。その意味で、先日の東京都知事選挙、特に主要候補者3名の活動スタイルからは、企業コミュニケーションの参考になる気づきがありましたので、ここに考察をまとめます。

【小池百合子氏】
他の候補者との討論などを極力行わず、公務優先を標榜してその姿をアピール。現職の強みを最大限に活かした活動に終始して、大方の予想通り3回目の当選を果たしました。

【蓮舫氏】
国政における与野党対立の構図を用いて現職を挑発し挑戦するスタイルを一貫。しかし支持は伸び悩み3位に終わりました。

【石丸伸二氏】
大半の都民には無名の存在だった前安芸高田市長の石丸氏の結果は2位。すでに知名度の高い小池氏・蓮舫氏ほどTVなどのマスメディアに登場しない中、タイムリーな動画投稿などSNS発信を多用。街頭演説を繰り返しながら尻上がりに支持を集め、圧倒的知名度の蓮舫候補に約38万票差をつける結果となりました。

小池氏と蓮舫氏の選挙活動は、それぞれSNS投稿にも工夫を凝らして活用していましたが、注目度が高いこともありマスメディアをはじめ従来から見慣れたコミュニケーションスタイルが中心であるように映りました。一方、ネット上のプレゼンス向上に重きを置いた石丸氏。政界では長い間、ネット上の話題性はまだ現実社会を動かす影響力を持ち得ないと思われていましたが、その常識が覆ったといえる結果になりました。石丸氏の得票の多くを若い無党派層が支えた今回の開票結果からは、時代の変わり目を印象づけられます。

しかし選挙が終わった後のネット上の風向きは、石丸氏の発言などを批判する流れへと大きく変わりました。

「政策」よりも「変化への期待」に比重?

今回の選挙戦を振り返ると、主要3候補者の主張は争点としてかみ合っておらず、論戦としては凡戦といえます。しかし、有権者からの共感獲得という点ではかなり白熱した選挙戦となりました。このことから3つの発見がありました。

  1. 私たちになじみ深い伝統的な選挙活動のスタイルが、必ずしも大衆の共感を得られなくなったということ
  2. ネットメディアを通じた大衆アピールが、短期間に大きなムーブを形成し得ること
  3. 「与党がダメなら野党」ではなく「第三の存在」や「新しいやり方」への期待

NHKが行った出口調査の結果に、世代別で示したものがあります。
(出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240707/k10014502181000.html

  • 10代と20代:40%余りが石丸さんに、20%台後半が小池さんに投票
  • 30代:およそ30%が石丸さんに、同じくおよそ30%が小池さんに投票
  • 40代:30%台半ばが小池さんに、30%余りが石丸さんに投票
  • 50代:40%余りが小池さんに、20%台半ばが石丸さんに投票
  • 60代:およそ40%が小池さんに、20%台後半が蓮舫さん、およそ20%が石丸さんに投票
  • 70歳以上:およそ50%が小池さんに、およそ30%が蓮舫さんに投票

SNSネイティブといえる20代以下の若者層では石丸候補の支持が急拡大したうえ、蓮舫候補の存在感が極めて希薄です。さらには30代~50代の働き盛り世代にも近い傾向が見受けられており、SNSの情報のみに依拠するとはいえない層にも、短期間で支持が形成された現実がうかがえます。

選挙直後の7月8日にNHKが発表した政党支持率では、47.2%が「特に支持している政党はない」と回答しています。つまり、自民党の裏金問題や野党への期待の低さなどを背景に、新たな政界のスター候補を待望する「変化への期待」が、石丸氏に注がれたのではないでしょうか。

ネット上の共感とその拡散スピード

NHKの調査では、候補者名の検索数は石丸氏が小池・蓮舫両氏の約3倍と突出していることがわかりました。
(出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240707/k10014502691000.html

個人最適化が進むネット空間では、検索などのユーザーの情報行動に合わせた結果を優先して表示させる傾向にあるため、一度その候補者に関連するコンテンツを見た場合、気づかぬうちに2本目、3本目と閲覧している可能性があります。こうした仕組みがネット上でプレゼンスを発揮する石丸氏の支持層を拡大させた可能性は否定できません。

また、石丸氏の公式Youtubeの登録者数は、蓮舫氏の29倍、小池氏の97倍でした。小池氏も蓮舫氏もSNS発信への目配りを欠かしていませんが、石丸氏の発信の質量は大きく異なっています。特徴的なのは、候補者陣営でないネットユーザーが石丸氏の関連動画を編集して発信する行為が同時多発的に繰り返されたことです。加えて、安芸高田市長時代にも動画発信を多用していたこと、当時のそれらコンテンツには、地方議会の守旧派と戦う若き首長という『わかりやすい』ストーリー性が内包されていたことが、前述の「変化への期待」の醸成に厚みと話題性を付加する効果を生んだものと推測されます。

企業コミュニケーションのヒント

 本稿では、今回の都知事選で候補者のSNS活用が大きく結果に影響したことを考察しました。本稿のまとめとして、ここから得られる3つの観点を企業コミュニケーションへのヒントとして解説したいと思います。

① 若い世代への訴求にはSNSを戦略的に使うことがカギとなる
今回の選挙で若い世代の支持を集めた石丸氏のYouTube登録者数の数を見れば一目瞭然。若い世代が情報収集する拠り所はマスメディアよりもネットが中心となっていることが伺えます。企業や企業の活動に関する情報収集を行うときも同様であることは容易に想像できます。
動画はコストがかかると積極的に取り組めない企業の声も聞こえてきますが、次世代からの認知を得るためには必要なコストではないでしょうか。

② 第三者のSNSへの出演や協力
今回の主要3候補者の中で、石丸氏の特徴として見られたのはYouTubeで注目の高いABEMAやNewsPicks、ReHacQ、中田敦彦氏、古舘伊知郎氏などのチャンネルにゲストで登場し、自身の考えを話す機会が多いということです。言い換えれば、石丸氏個人に関心がなかったが、これらのチャンネルを登録していたという人たちに訴求できたということです。
企業の活動に置き換えてみても、オウンドメディアでの発信のみならず、マスメディアや第三者のメディアで話をする機会を作ることは重要であるといえます。

③ 普段の姿を見せる
若い世代の支持を獲得した石丸氏を巡っては、安芸高田市長時代の動画に注目が集まりました。「今の姿」のみならず「これまでの姿」または「普段の姿」に関心が寄せられていることがポイントです。選挙後にネット上で石丸氏を批判する声の中にも過去の動画などを切り抜いて「これが彼の本当の姿」だと主張するアプローチが取られています。つまり、多くの人が知りたいのは「人となり」だといえます。企業は法人格であるため「人となり」を見せるのは容易ではありませんが、それでも「普段の姿」を伝えることはできます。新製品の発表などの華やかな姿のみならず、企業の当たり前の様子を可視化することの意義を今回の選挙戦から感じていただければ幸いです。

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