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揺るぎないスタンスを示す巨大ブランド〜炎上をポジティブ活用するナイキの事例

2018/9/25 お知らせ, ブログ コミュニケーション戦略, ソーシャルメディア, リスク・危機管理, 企業レピュテーション, 傾聴 Kusumegi

本年9月3日、ナイキはブランドスローガンである「Just do it.」の30周年記念キャンペーンでプロテニス選手のセリーナ・ウィリアムズ、現役NFL選手のオデル・ベッカム Jr、そして元NFL選手であるコリン・キャパニックの3名を広告塔として新たに採用した。

さかのぼること2年前の2016年、現役のNFL選手であったコリン・キャパニックは、当時度々発生した警察による人種差別ともとれる暴力事件に抗議するため、試合前の国歌斉唱中に起立することを拒否してひざまずき、メディアを炎上させた経歴の持ち主である。

彼がこの行動に出た直後、「taking a knee」ムーブメントとして、他の黒人選手、歌手、セレブも同様に国歌斉唱でひざまずく行為が拡散し、更なるメディアの炎上を助長した。
米国において国歌斉唱中にひざまずく行為は、国・国旗に対する「侮辱」と見られることが炎上の背景にある。

後にNFLは国家斉唱中にひざまずく行為を全面禁止にし、トランプ大統領も「偉大なアメリカ国旗を侮辱することは許されない」とツイッターで批判。
翌2017年3月にフリーエージェントとなったコリン・キャパニックは他のチームからオファーがなく、フリーとなってしまった。

今回そのコリン・キャパニックがナイキのキャンペーンに起用されることで、ソーシャルメディアは再び炎上した。

その影響は保守派の一部がナイキ製品を燃やしてボイコットするまでに発展し、ナイキは彼をキャンペーン起用することに関して社会的立場を明確に示した。

一方でこのボイコットに対抗するように、コリン・キャパニックの抗議行動を改めて擁護する声も寄せられ、「自分が買った靴を自ら燃やすのは何も意味もない。燃やすなら寄付した方が良い」など、ナイキを擁護する投稿も多く寄せられている。

「Believe in something. Even if it means sacrificing everything.」(信念を持て、たとえ自分の全てを犠牲にしたとしても)というパワフルなキャッチコピーもまた、「Just do it.」30周年記念キャンペーンの魅力になっている。

トランプ大統領のツイッターをはじめとして、ソーシャルメディア上での注目は高く、多数のメディアにも取り上げられ、世界で大きな話題を呼んだ。

このニュースが報道されてから3週間ほど経つが、この“炎上事件”によるナイキの売上が一番気になるところである。

結果的には、彼を起用した「Just do it.」30周年記念キャンペーンがリリースされた週末のオンライン売上は通常の週末に比べて33%も上昇したらしい。

ナイキにとってコリン・キャパニックの起用は計算されたリスクである。
ある調査によると、ナイキの顧客の三分の二は35歳以下で、人種的にも多様なグループだ。このグループにカテゴライズされる“ミレニアル世代”や“Gen Z 世代”は政治的・社会的スタンスを取る企業を注目する傾向にある。
今回のナイキのキャンペーンは、まさに顧客ターゲットを明確に定めた施策なのである。
こうしてナイキは、「製品を愛用することを通して社会的主張ができる」ブランドとしてポジションを確立した。

もちろんブランドから離れた顧客もいただろうがこれも計算どおりで、より熱狂的なファンを醸成し、新たなファンを獲得することにも成功したのである。
この結果の背景には間違いなくナイキの絶対的かつ、確固たるブランドイメージの構築がある。

このように社会的スタンスを確立し、ブランドイメージの構築を手がけているのはナイキだけではない。

アウトドアブランドのパタゴニアもまた、トランプ大統領がユタ州にある国立公園を縮小すると発表したことに対して、明確に反対するメッセージをSNSで配信し話題を呼んだ。

消費者は、商品の差別化を求めることはもちろんのこと、ブランドの政治的スタンスと自らのスタンスの距離感を見ている。

政治的スタンス若くは社会的スタンスをはっきりと明示することはすなわち、万人受けする「グレーゾーン」の立ち位置から、「白か」、「黒か」を明確にする必要に迫られる。

当然ながら結果として「対局」に回る消費者も出るが、その裏でブランドを真に理解しているファンからのロイヤリティーを獲得することもできる。

その為にはブランド自身がファンを理解し、『自身』を理解することが何より不可欠だ。

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