お知らせ

アメリカの大手自動車メーカーのGeneral Motors(以下、GM)は2009年に経営破綻し、国有化されました(その後2013年にアメリカ合衆国財務省が保有する株式すべての売却が完了し、国有化が解消)。さらに、その数年後の2014年には、生産した自動車の不具合により死者が伴う事故が多発。この問題を長年放置していたことが発覚し、リコール隠しとして大きな問題になりました。
このような状況において、GMは信頼回復のためにインターナルコミュニケーションに力を入れました。

インターナルコミュニケーションで重視したポイントは主に以下の2点。

①経営破綻による社員やステークホルダーの不安を解消するため、経営状況を細やかに伝達する

②今後の経営再建に向けて社員のモチベーションやGMらしさの文化醸成

今回のブログでは、当時のGMがどのようなインターナルコミュニケーションを実施したのか、経営危機における企業コミュニケーションの事例として整理しました。

倒産に伴うインターナルコミュニケーションとソーシャルメディア
【社外向け施策】
・GMが倒産すると同時に当時CEO、 Fritz Henderson氏はステークホルダーの信頼を取り戻すためTwitterとFacebookを使った情報発信に注力することを決定
・Twitterでは事実情報を発信し、運用にあたっては投稿内容の精査など弁護士と連携
・ソーシャルメディアを中心とした定期的な発信サイクルを整えていった
・アカウントの運用にあたっては約2割の人員が情報発信に、約8割がコメント対応に分配され、この期間のソーシャルメディア対応チームはブランド担当、IR担当を合わせて5人から12人に増強された
・倒産申請から3日目にはCEOを記者会見ではなく、Twitterで頂いた質問をひたすら応答しました。Facebookでは自社のページに集まるコメントや投稿に対して返信し、Facebookで醸成してきたコミュニティへの対応を行った

当時のGMソーシャルメディア・グローバルディレクターであったChristopher Barger氏は、PRSA誌のインタビュー記事の中で当時の経験から、危機が発生する前のコミュニティの醸成とソーシャルメディアを通した双方のエンゲージメントとそれを実現する具体的なアクションが重要であったと答えています。

【社内向け施策】
・当時約20万人の従業員を抱えていたGMは経営破綻に伴い、企業内に向けて情報共有を行い、従業員の不安を解消がする必要があった
・イントラネット上の「Answer Me Now」というグローバルで活用できる社内コミュニケーションページを通じて従業員から質問を受け付けた(多い時には一日約125件もの質問が寄せられ、世界各国の従業員の疑問や不安に応えていった)
・各地域の言語や文化を考慮し、コアメッセージを各地域のコミュニケーションパートナーにお伝えし、ローカル・リーダーに権限を委譲しコミュニケーションの質を強化した

ビジネスの再建に向けての文化醸成と信頼回復
2010年のIABCワールドカンファレンスで、当時GMのインターナルコミュニケーションのエグゼクティブを務めていたKatie McBride氏は、経営破綻後に実施したふたつの社内コミュニケーションプログラムを紹介しました。

1つ目はプロダクトアンバサダープログラム。この Ride and Driveというプログラムは、社員が自社の新しい車のスポークスパーソンとなれるように、週末GM車を自宅に持ち帰ることを認め、車に触れたり運転する機会を積極的に増やしたというものでした。この取り組みの狙いは、社員が自社の製品について理解を深め、アンバサダーになれるようにすると同時に、社員が助手席にいることを条件に家族や友人の試乗も認められていることから、社員から派生する広範なステークホルダーにGMの商品に触れる機会を増やすことでした。

2つ目のジャーナリストプログラムでは、社員がメディアイベントや製品研修などに参加いただき、イントラネットやブログに情報発信を行っていただく社内教育プログラムを実施しました。最初は中国で実施したオートショーで導入された施策だが、この活動の狙いは、 コーポレート部門主体のコミュニケーションだけでなく、社員が主体的に社内外コミュニケーションを行う文化を醸成し、社員の商品知識を鍛えながら、一人一人の社員がGMのレピュテーションや信頼を維持・向上させる役割を担える仕組みを強化したことでした。

General Motorsから学ぶ企業コミュニケーションのポイント
このGMの事例からの学びとして、主に3つのポイントが挙げられると思います。
・社外、社内に対して経営の考えていることを小まめに発信したこと
・グローバルに亘る各地域で働く社員に対して同じ内容が伝わるよう、コンテキストを重視した発信をしたこと
・社員との意思疎通を強化した上で、社員ひとり一人のコミュニケーション力を強化したこと

GMは危機が迫るなか、情報発信と傾聴活動を行い、社内のリーダーを巻き込んで工夫しながらコミュニケーション活動を行っていました。予知できぬ事態により、危機に迫ることはどの企業も同じです。危機に迫った際の判断力とコミュニケーション力により、企業が受ける損害を大きく左右します。また、事後の再建に向けて、どう変わっていくか、具体的なアクションを社員や株主など、社内外のステークホルダーに説明する前向きなコミュニケーションと文化形成も経営が必要とする大切なコミュニケーション機能です。危機が発生した際は外部へのコミュニケーションを真っ先に思いつく方も多いと思いますが、直接影響を受けるステークホルダーは社内から派生します。また、事後の再建に向けてインターナルの強化は企業存続に必要な前提条件です。社内のステークホルダーを強化するコミュニケーション事例として、今回のGMのインターナルコミュニケーションを参考にして頂ければ幸いです。

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