お知らせ

近年、短尺の動画を投稿・共有するソーシャルメディア「TikTok」が注目されています。
米国では2020年8月時点で約1,000万人の月間アクティブユーザーを獲得し、2018年と比べて約800%の成長を遂げ、日本国内においても2018年に950万の月間アクティブユーザー数を獲得しています。
ユーザーの多くはZ世代(10~25歳)ですが、テレビやラジオ等でも取り上げられていることから、幅広い年齢層に認知されつつあります。
また、新型コロナウィルス感染症の影響により自粛生活を余儀なくされた人々がデジタル上のコミュニケーションやエンターテインメント消費を推し進めていることも、TikTokに新たなユーザーが集まってきている要因となっています。

特に米国では、様々な職場の舞台裏、Behind-the-Scenesを発信するコンテンツが注目を浴び、また議論を生んでいます。

例えば、スターバックスで働くバリスタが人気ドリンクを作っている様子を、大手チェーンのハンバーガー店でも従業員が調理している様子を、普段見えないサービスの舞台裏を見せようと個人のTikTokアカウントに無断で投稿したことが話題を呼び、多くの視聴回数を獲得しました。
このようなコンテンツはブランド認知や顧客とのエンゲージメントに効果をもたらすものの、情報漏洩や企業秘密の流出につながるリスクがあるため、従業員によるTikTok投稿に対する企業の対応は揺れています。

従業員のアンバサダー化・インフルエンサー化の取り組みに関するメリット・デメリットについて、以下の2つの事例を参照しながら考察したいと思います。

【事例1:Sherwin Williams(塗料製造会社)】
60,000人の従業員を抱え、米国で4,000以上の店舗を持つ、塗料製造大手のSherwin Williamsで起きた事例を紹介します。
2020年オハイオ州にある塗料メーカーのSherwin Williamsの店舗でアルバイトとして働いていたTony Piloseno氏は仕事で行っていたペンキの色の配合に興味を持ち、色んな人に見てもらいたいとの想いから、ペンキの配合の作業風景をTikTokで配信しました。

@tonesterpaints

Mixing the most expensive door paint in the world 😳 following back whoever follows my IG!! #asmr #paint #randomthings #earthday #paintmixing

♬ original sound – tonesterpaints

この動画は30万~50万の「いいね!」を獲得し、Tony氏は自身のTikTokアカウントのフォロワー数が増えていることを受け、彼が働いている店舗のマネージャーやセールス担当に一連の内容を報告し、直属の上司から賛同も得ていました。
大学でマーケティングを専攻していたTony氏はSherwin Williams本社のマーケティング活動に貢献できると考え、TikTok活用の提案書を作成し、本社のマーケティング担当部署へ打診しました。しかし、本社はこの提案を歓迎せず、結果的にTony氏はその数ヶ月後に解雇されることとなりました。解雇の理由は、動画を見た顧客からの苦情と勤務時間中のソーシャルメディアの利用でした。この件はネットニュースや地元ニュースでも取り上げられ、Tony氏の情熱を軽視したと企業側を批判する意見や、ブランドリスクの観点から企業側の判断に理解を示す意見もあり、彼の行動は賛否両論に別れました。

【事例2:Walmart(小売/流通)】
米小売大手であるWalmartは早い段階からTikTokを導入し、2020年にはTikTokの米国事業の買収交渉に参戦するほど、Z世代へのリーチに興味を示していました。(買収交渉はOracleとWalmartの両社で成立し、前社が12.5%、Walmartが7.5%の株式を保有することになった)
Walmartはソーシャルメディアの活用施策として、従業員のインフルエンサー化に積極的に取り組み、顧客との接点を拡げようとしています。

その施策の一例が「Spotlight」です。
「Spotlight」とは、Walmartの各地域で店舗が独自に地域とのコミュニケーションを活性化するためにコンテンツを配信するSNSプログラム「My Local Social」から発展した社内向けアプリで、企業としてではなく、自社の従業員をアンバサダーとし、SNSの個人アカウントを通じて情報を発信するプログラムです。
このプログラムに約500名の従業員が参画し、ソーシャルメディア上における顧客とのエンゲージメントを強化しています。

このプログラムを企画したBrand Networks社のJeff Zilberman氏は、Walmartの狙いについてModern Retail誌のインタビューの中で以下のように語っています。
“狙いは世界最大の従業員インフルエンサープログラムの構築にある。Walmart は顧客が日々接点を持つ最前線の従業員とよりオーセンティックかつ、関連性の高いコミュニケーション接点を構築できるように努めている。”
https://www.modernretail.co/retailers/a-true-influencer-program-inside-walmarts-growing-army-of-employee-tiktokers/(出典元)

Spotlightを通してInstagramでWalmartの宅配アプリを告知する従業員のCastle氏
https://www.modernretail.co/retailers/a-true-influencer-program-inside-walmarts-growing-army-of-employee-tiktokers/(出典元)

「Spotlight」は、アプリ経由で本社から対象とする従業員にコンテンツのお題を提供したり、コンテンツに関連した主題や題材の共有を行っています。従業員はソーシャルメディアの個人アカウントでコンテンツを投稿します。
上の画像は、「Spotlight」を活用している従業員のCastle氏が投稿した「Walmart+」という公式アプリについて紹介する投稿です。
このような投稿を通じて、従業員は商品のプロモーションや店舗の採用告知などを行い、店舗運営に寄与するコミュニケーションを行っています。

しかし、従業員は「Spotlight」のように企業の企画が主体で従業員の個人アカウントでコンテンツ配信しているケースとは別に、従業員が個人アカウントに許可なく職場の情報を流出させるケースもあります。
2020年11月、テキサス州にあるWalmartの店舗で、ある従業員が上司から人種差別とセクハラを受けたこと、そのことを理由に退職することを店内放送し、その様子をTikTokに投稿しました。その動画の再生回数は250万回を超え注目を集めることとなりました。

ソーシャルメディアに慣れ親しんだ世代に向けた環境整備
これらの事例が示す通り、企業は従業員の個人アカウントでの投稿を促すプログラムや仕組みを整備することはできても、従業員個人のアカウントを管理することはできません。
企業情報を従業員のソーシャルメディアアカウントで発信することは、従業員個人の発信力を高め、企業ブランドの一翼を担うアンバサダーとしての働きに利点を見出す一方で、服務規程の策定や従業員研修などの管理体制と、企業と従業員との信頼形成に努めるなど、これをとりまく環境整備をしないとこの活動自体が諸刃の剣となってしまいます。
米国におけるコーヒーチェーンのスターバックスやファーストフードのChik-fil-aでは、従業員数が多い分、企業非公認の無断投稿の動画も多く、そのほとんどは彼らの解雇に繋がっています。
その企業の厳しい姿勢に対して従業員は不満を抱き、この不満がブランドの評判を落とすことにつながってもいます。
現在Z世代の多くは就労する年齢を迎えていますが、ソーシャルメディア台頭期に学生だった彼らとビジネスパーソンとしてソーシャルメディアに親しんでいった世代では、その活用は大きくことなります。

若いZ世代を職場に迎えるにあたって、今までとは違った概念のガイドラインや教育・研修プログラムの見直しが必要ではないでしょうか。

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