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非常事態における“伝える者の責任と葛藤”
~対談:劇場版『アナウンサーたちの戦争』を鑑賞して~
2024/8/29 ブログ アナウンサーたちの戦争, クライシス・コミュニケーション, コミュニケーター, 報道, 映画で語るコミュニケーション, 災害報道, 発信者の責任, 非常事態
2024年8月16日に劇場公開された『劇場版「アナウンサーたちの戦争」』は、23年夏にNHKで放送されたスペシャルドラマの再編集版で、太平洋戦争当時の報道現場を描いた映画です。
本作を鑑賞した当社メンバーの対談を通じて、情報発信する立場の影響力と責任、組織と個人間の葛藤など、現代にも共通するコミュニケーションの課題に迫ります。
対談者
藤本 真未
南日本放送や東京MXを経て現在はフリーでアナウンサーを務める。2022年よりCMCメンバーとしてプロジェクトのサポートやマスメディア対応支援に従事。
河原畑 剛
教育や介護関連のサービスを展開する企業に37年以上勤務し、2024年4月よりHRコンサルタントとしてCMCに参画。
映画検定1級を取得するほどの映画好き。
河原畑
この映画は放送局内部の人が制作していますが、報道現場のリアリティを感じましたか?
藤本
最初のほうで森田剛さん演じる主人公が、電車の中で「架空実況(即時描写)」する場面がありましたよね。あれは、今も新人アナウンサーが通る道なんですよ。
河原畑
目の前の風景や人の動きをひたすら表現していくというものですか?
藤本
はい、見たものを即座に言葉にする練習です。昔から定着していたトレーニングなんだと気づかされましたし、アナウンサーのリアルな姿が描かれていましたね。
河原畑
戦争下に「何をしゃべるのか」「どうしゃべるのか」の葛藤を描いた映画だと思いましたが、現役アナウンサーとして印象深かったところは?
藤本
そうですね、「虫眼鏡で調べて、望遠鏡で伝える」という主人公の和田アナウンサーのポリシーでしょうか。しゃべる言葉の根拠をどう持つのか、単なる想像ではしゃべらない。そこに確信が持てたら、豊かな表現力で遠くまで声を届ける。アナウンサーという職業の経験者として、すごく大事な考えだとインパクトがあるひと言でしたね。
河原畑
当時、放送局は戦争に協力しなければならない状況でした。アナウンサーも組織の一員として、アナウンスすべき内容が規定されていましたね。
藤本
だから、主人公はマイクの前でしゃべるに足る事実を調べ続けていましたね。学徒出陣を控えた学生たちの本音を引き出して、悩んで悩んで、結局それを放送に乗せることはできなかった…。けれど、悩み苦しむ姿勢はグッと響くものがありました。
河原畑
戦死者を追悼する招魂祭のエピソードも印象的でしたね。軍部から放送局に要請されたのは、厳かに式典の様子を中継することなのに、主人公はオリジナルな原稿で全国の聴取者を感動させる。
藤本
その原稿も、実は彼が遺族から丁寧に取材して書いたものだったという描写がありましたね。
河原畑
軍部からは少し叱られたけれど、一応、放送局としての対面は保てた。組織の大きな動きの中で、個人として大切だと考えることを、ギリギリのバランスで実現する。個人は容易に組織に逆らえませんが、その努力は諦めない。企業という組織で働く個人にとっても考えさせられるシーンだったと思います。
藤本
組織と、組織の中の個人、そのバランス感覚もこの映画の大事なテーマですね。
河原畑
「どうしゃべるか」の観点でいうと、映画では高良健吾さん演じる館野アナウンサーが、絶叫調の語りで戦意高揚効果を高く評価されるシーンがありました。現在、報道現場のアナウンスでは、感情は抑制して読むのでしょうか?
藤本
確かにニュースを読むときは、余計な色を付けないようにします。ラジオでもTVでも区別はなく、自分の中でコントロールしています。でも、スポーツなどの実況中継などでは、いかに現場の高揚感を伝えられるか、が大事になるので違ってきますね。
河原畑
エモーショナルに伝えるということ?
藤本
現場の様子がより伝わるように描写するという意味では、感情を込めた方が良い場合もあります。今回の映画では伝える手法が「ラジオ」の時代ですので、映像の助けがないぶん、その点は意識的に強調されていたのではないかと思います。それに関連すると、実は私、映画を見ながら災害報道の現場を連想していたんです。
河原畑
地震や豪雨で、避難を呼びかける報道が今年のはじめにも話題になりましたね。
藤本
そう。例えば津波から逃げてもらうためのアナウンスには、敢えて緊迫感を伝え行動を促す要素が必要です。大災害時は、サイマル放送といって、ラジオもTVも同じ放送が流れるようになっていますし、描かれていた戦時中の報道現場と、現在の災害報道の現場には何か共通する空気感がある、そう感じました。
河原畑
そうか。絶叫調のアナウンスで聞き手の感情を動かすこと自体が問題ではないのかもしれませんね。そういうしゃべり方、伝え方が、人の生命を救う場合だってある。その時々の状況の中で、何をどう伝えるべきか、コミュニケーションのあり方はやはり単純なものではありませんね。
藤本
自分が届けた言葉が誰かの人生を左右させるかもしれない、伝える立場の責任の重さって、そういうことかもしれないですね。
河原畑
映画のラスト、戦後の描写ですが、主人公をはじめ様々な苦い経験をされたアナウンサーの方々の多くは退職しませんでしたね。戦後も報道やアナウンスの仕事を続けていきます。藤本さんはそこをどう感じました?
藤本
何というか、“しゃべり手”としてのプライドのようなものを感じます。確かに、戦争協力の側面とか、罪悪感も含めて深く悩まれたと思いますが、それでもその仕事を辞めなかったのは、戦争の有無にかかわらず、職業としての「伝え続ける」使命感や信念のようなものを持っていたからではないか、と思いました。
河原畑
報道の現場ではなく、楽しんでもらう放送の業務に移った方もいらっしゃったようですね。
藤本
そういう多様な関わり方を含めて、アナウンサーの現場を立て直すのも自分たちだ、と皆さん強く思っていらしたのではないかと感じます。
河原畑
この映画、まだまだ語れそうですね(笑)。
藤本
タイミングみつけて、2回目をやりましょう(笑)
参考:劇場版『アナウンサーたちの戦争』公式サイト
https://thevoices-at-war-movie.com/#
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