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ActivityPubと分散型プロトコルとは? これからのソーシャルメディアはどう変化するのか
2024/11/8 お知らせ, ブログ ActivityPub, SNS運用, ソーシャルメディア, デジタルメディア, 分散型プロトコル, 組織コミュニケーション
現代のデジタル時代において、ソーシャルメディアは人々がコミュニケーションや繋がりを持つための主要な手段となりました。しかし、これらの大部分は、Facebook、X(旧Twitter)、Instagramなどの中央集権的な巨大テック企業によって支配されており、「壁に囲まれた庭」のように、各社が用意したプラットフォーム上でしか活動できません。いちユーザーとしては、各社のいいなりに従うしかない状況ともいえます。
これらの課題に対する解決策として注目されているのが、「分散型プロトコル」です。
分散型プロトコルとは?
分散型プロトコルとは、特定の中央管理者や運営者が存在しない、ピア・ツー・ピア(P2P)のネットワーク上で動作するシステムです。ユーザー同士が直接つながることで、データの管理や配信が分散され、中央サーバーを介さずにコミュニケーションやコンテンツ共有が行えるネットワークを指します。
分散型プロトコルの仕組みを理解するために、図書館の運営を例に考えてみましょう。
中央集権型システム(大規模図書館)
中央集権型のソーシャルメディアを、大都市にある大規模な図書館だとしましょう。この図書館は、一つの建物にすべての本や情報が集められていて、そこを訪れる人々が本を借りたり、返却したりします。図書館には管理者がいて、どの本が利用可能か、どの本を廃棄するか、利用者の記録をどう管理するかをすべて決定します。
この場合、利用者は図書館が提供するルールや条件に従う必要があり、本の利用に関するすべてのデータ(借りた本のリスト、閲覧履歴など)も図書館側が保持しています。もし図書館が閉館すれば、その図書館にある本も、サービスも、すべてアクセスできなくなります。利用者は、管理者の判断に依存しています。
分散型プロトコル(施設を持たないブックシェアリングコミュニティ)
一方、分散型プロトコルは、施設を持たないブックシェアリング型のコミュニティだと考えてください。このコミュニティでは、個人が自分の持っている本を直接他の人と共有します。中央の図書館や倉庫といった物理的な施設は存在せず、メンバー同士が直接連絡を取り合い、本の貸し借りを行います。
各メンバーは、自分が所有する本のリストをコミュニティ内で共有し、読みたい本があればその本を持っている人に直接依頼します。貸し借りの方法や期間は、当事者同士で自由に決めることができます。このプロセスには、中央の管理者や仲介者はいません。
このコミュニティでは、すべてのメンバーが対等な立場で参加し、お互いに協力し合います。もし一人のメンバーが活動をやめても、他のメンバーが引き続き活動している限り、コミュニティ全体の機能は維持されます。
このブックシェアリングコミュニティが、分散型プロトコルのイメージです。ユーザーは特定のサーバーや管理者に縛られることなく、直接他のユーザーと情報やコンテンツをやり取りできます。また、ネットワーク全体が機能し続ける限り、特定のメンバーやサービスが停止しても、全体への影響は最小限に抑えられます。
分散型プロトコルの利点
• 選択の自由: ユーザーは、自分がどのメンバーから本を借りるかを自由に選ぶことができ、また貸し借りの条件や期間なども当事者同士で自由に決めることができます。これにより、自分の興味やニーズに合った本を持つ人と直接つながり、最適な形で本を手に入れ、ユーザー間の信頼関係が強化されます。
• 耐障害性: 一部のメンバーが活動を停止しても、他のメンバーが共有を続けている限り、コミュニティ全体の機能は維持されます。これは、分散型ネットワークの強みであり、特定の個人やサービスが停止しても全体への影響が最小限に抑えられることを意味します。図書館が閉館した場合にはこうはいきません。
• データの所有権: 各ユーザーは、自分が所有する本や貸し借りの履歴を自分で管理できます。中央の管理者に依存せず、自分の情報や活動をコントロールできるため、プライバシー情報を特定の管理者に預けるずに済みます。
このように、分散型プロトコルは、特定の一カ所に情報や力が集中するのではなく、ネットワーク全体が協力して情報を管理し、ユーザーに選択肢と自由を提供する仕組みです。
分散型プロトコルが採用されている事例
現在、いくつかの分散型ソーシャルメディアプロトコルが注目を集めています。代表的なものには以下のようなものがあります。
•ActivityPub: W3C(World Wide Web Consortium)によって標準化され、異なるソーシャルメディアプラットフォームが相互にやり取りできるようにする、オープンで分散型のソーシャルネットワーキングプロトコルです。
•AT Protocol(Bluesky): Twitterの創設者Jack Dorseyによって開発されている分散型プロトコル。データの透明性とユーザーの自己管理を重視しています。
分散型プロトコルに基づくソーシャルメディアが、従来の中央集権型プラットフォームに代わる新しい選択肢として注目を集める背景には、ユーザーのプライバシーの保護への懸念、アルゴリズムなどによるプラットフォーム側の収益化に重点が置かれたコンテンツ配信の歪みなど、さまざまな課題があります。このような課題から利用サイドが具体的なアクションを起こした事例として、2024年8月にブラジルで「X」がサービスを停止せざるを得なくなったことが挙げられます。これは、偽情報を拡散するアカウントの規制に応じなかったため、ブラジルの最高裁が停止命令を出したことが原因となりました。ブラジルで「X」を運用していた企業や団体にとって、この事象はこれまで築き上げたコミュニティを失うことを意味します。(その後10月に「X」が合計2800万レアル(約7億5000万円)の罰金を支払い、サービスが再開されたとのこと)
今日の中央集権型プラットフォームは、大量の情報やユーザーを有するという利点がある一方で、このようなプラットフォーム側の問題やそれに対する規制等による流動性が企業などの利用者に不利益をもたらす面もあります。企業のコミュニケーションに限らず、投資対象にはそれに値する安定した成長基盤を求めるものですが、企業がこのようなコントロールが効かないプラットフォームでステークホルダーとの関係構築を継続することは不安がついて回ります。
かと言って、世の中が分散型プロトコルにすぐに移行するかというと、そうではないと考えます。現時点においては、分散型プロトコルの利用はまだ広がっておらず、複数のプロトコルが多数のプラットフォームを介して利用をされている状況です。どのプロトコル、どのプラットフォームが今後普及し、一般のユーザーに活用が広がるかはまだ定かではありません。そのため、今はまだ企業が特定のプロトコルやプラットフォームを選択するときではないでしょう。しかし今後、どのように分散型プロトコルが発展し、市場に普及していくかという動向は定点観測すると良いと考えます。移り変わる環境の中で、コミュニケーションはどう変わっていくのか。今後の自社のデジタル・コミュニケーションの新たなスタイルを探索するきっかけが見つかるかもしれません。
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