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【第2回】課題に対して主体的であること、そしてチームの力

2018/4/24 ブログ インターナル・コミュニケーション, キャリアアップ, コミュニケーション教育, チームワーク staff

オンライン環境の充実と役割を付与された
小グループでの活動が主体的な行動の助けに

ブレッドスミス:前回に続きまして、野村先生にはクラウドを使ったゼミ生の新書の制作についてお伺いしたいと思います。

野村教授:情報共有ツールと申し上げましたが、実はクラウドを使うと制作段階を可視化することができるので、メールなどで提出を受けなくても文章を読んで手直しができますし、学生にとっても他のゼミ生からヒントを得ることだってあったと思います。
これは、他人の実績を自分に取り込むことにもなると思うのです。
私のゼミの新書づくりはこの積み重ねなのですよね。
また、みんなでつくり上げているという実感は、8冊合計約900ページという成果として、ゼミ生一人ひとりの実績となりますから。
ブログやSNSではなく『新書』というスタイルを選んだのは、読者に手軽に手にとってもらえるコンパクトさとシンプルさが良いと思ったことと、単にコピー用紙をホチキス留めした冊子品質ではなく製本された「製品」をつくったという充実感や成果を学生自身に感じてもらいたかったからです。
私は「学生が主人公であり、成果を感じることができる学びのあり方」を以前から模索していていました。
今回、クラウドシステムを利用して学生が相互に情報共有をしたり、情報を可視化したりすることで、この挑戦のハードルをより低くできましたし、実際に8冊の新書という形で成果も得られました。
この手法は今後、他の演習・授業などにも応用していきます。

ブレッドスミス:今回新書を作った野村ゼミ第13期生は34名。その全員が2年生ですよね。
さぁ、チームで本を作ろうと言っても、スムーズにスタートできるものでしょうか。実際はどのように制作されていたのでしょうか。

長山さん:8つのテーマや課題図書は事前に野村先生から指定されており、新書の制作活動はこのテーマに沿って行いましたので比較的スムーズにスタートしました。
基本的には、1テーマにつき4、5人のチームを編成し、次に課題図書を読み、フレーズやテーゼ(命題)を集め、見開き1ページ(約800文字程度)に収まるように原稿を仕上げていく作業を積み重ねます。

大坪さん:テーマを選ぶときは「自分をアップデートするのに何が1番必要か」を基準にするよう野村先生からご指導いただいていただけで、課題の本の中で大切だと感じた新書のフレーズやテーゼの抜き出し方はそれぞれのチームに任されていました。ですから当然チームによってテーゼの抜き方が違ってきます。
基本的にはチームごとのやり方で進行しましたが、シリーズ本と銘打っているので、本のレイアウトについては統一するある必要があります。
どこをどう統一させるかについては、野村先生が提案した例を基に各チームどうしがチャット使って長い時間議論を重ね、統一することができました。
また、Stock、Workplace、エディナビなどのクラウドサービスを利用することで時間や場所が制約されず、先生がおっしゃっていたような可視化や共有がスムーズにできたことが作業の効率化に大きな役割をなしました。

学生たちが直面するチーム力向上の難しさ。
しかし、それは問題解決の力につながる

ブレッドスミス:学生の皆さんにはかなりの主体性が求められた様子が伺えますね。
企業ではトップダウンで社員を働かせるのではなく、社員自身が自発的に創造性を持って会社に貢献していくことが求められます。
この変化に対応するためには組織側が工夫をし、働きやすい環境を整備することと、個人の努力とが両輪で回る必要と考えています。
学生の皆さん達も、Teachingがベースとなる受け身の教育(中高時代)から、現在のアクティブラーニング中心の大学生活へと変わってきたと思うのですが、この変化に対応するために、どのような意識や工夫がありましたか?

中村さん:おっしゃるとおり、自分の考えを深めながら議論をするアクティブラーニングは、中学高校では経験したことではありませんので正直戸惑いました。
これまでの勉強とは違って、正解や模範解答というのもありませんから「程よい落とし所」を見出すことが私にとっては苦労の連続でした。
経済学部では1年次必修の基礎演習でアクティブラーニングをします。
年間を通して、限られた時間の中で与えられた課題の解決方法を3~5人程度のグループで考えなければなりません。
特にグループ内でメンバーの役割を意識せず自ら手を上げて物事をこなしていかなければ、5分でできることが何時間経っても進まないということが起こります。そういった常に動こうとする姿勢と、最終的にグループ全員が横並びに揃うかですとか、グループ内のメンバーで助け合いつつ完成にたどり着けるかが重要になってきます。
そういう意味では、野村ゼミで新書を作るために必要だった、主体性とチーム連携は基礎演習で学ぶことができましたね。

ブレッドスミス:1年生で必修の基礎演習は、文字通り考え方の基礎を形成していったのですね。

中村さん:しかしながら、アクティブラーニングを経験したからといって簡単にゼミの目標にたどり着けたわけではありません。
新書制作はチーム単位で進行していますから、チームによってメンバーの貢献度合いが異なったり、共有がうまくできていなかったりして、それが進行の遅れとなります。
効率化のために役割分担したことで、自分の役割だけを進めて他のメンバーの役割について自分の領域から排除してしまい、進捗の遅い人待ちになって効率が悪くなったこともあります。クラウドを使って別々の場所から作業していますから、尚更これを助長する環境であったことも否めません。
また、チーム内でヘルプの指示が出ても、振られた側は自分の役割は既に終わっているわけですから、チャットの通知を切ってしまう…。
余計に進みが遅くなる悪循環に陥ることもありましたが、このようなチームには、先陣を切って原稿を完成させたチームがフォローに入り、完成までたどり着くことができました。
しかし、新たな問題が出てきます。 8冊の本を並べると一冊ごとの厚みに明確な差が出てしまったのです。
振り返ってみると、チャットへの参加率や、集団への貢献を高めていくという意識は当然必要な半面、読書の好き・嫌い、文章を書くことの好き・嫌いなど、人それぞれに得手不得手があるわけです。
できるまで待ったり、リーダーが率先してカバーしたりすることは一つの方法かもしれませんが、そもそも役割分担をした時点で、個々の得意分野がチーム内で生かしきれる役割分担だったかを反省しました。

ブレッドスミス:なるほど。得意分野を活かす役割分担の必要性に気づくことができたことは素晴らしいと思います。
一方で、学生たちの主体性を促すために野村先生はどのように工夫されたのでしょうか。

野村教授:1年次の基礎演習はアクティブラーニングをしていますが、今回私のゼミでやってきたことの目的はアクティブラーニングではなかったわけです。
しかしゼミをやっていくうちに「正解はないから好きにやってみよう」というのは無茶だということに気づきました。
大学生は常識を持っている反面、考えれば考えるほど無難かつ、私からすれば面白みのないアイディアばかりが揃います。
様々なアイディア出しに苦労しましたが、とにかく人と人とのつながりを重要視することにしました。

企業においてもスキルやモチベーション、価値観が異なる複数人が一つのチームとして活動することがほとんどです。広義で言えば「多様性の受容」となりますが、野村ゼミの学生の皆さんがこの活動を通じて体験したチーム活動の大変さは、多様性の受容を前提としたチーム作りであるとも言えます。

次回【第3回】では、野村先生がゼミ活動を通じて学生の皆さんに会得してもらいたかったスキルやマインド、新書プロジェクト=学びの可視化で見られた学生の皆さんの変化を伺いました。

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